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金沢地方裁判所 平成8年(ワ)25号 判決 1998年3月13日

原告

笹尾和也

原告兼原告笹尾和也法定代理人親権者父

笹尾和馬

原告兼原告笹尾和也法定代理人親権者母

笹尾辰枝

原告ら訴訟代理人弁護士

岩淵正明

橋本明夫

被告

松任市

被告代表者市長

細川久米夫

被告訴訟代理人弁護士

玉田勇作

主文

一  被告は、原告笹尾和也に対し、金一億五〇〇〇万円、原告笹尾和馬及び原告笹尾辰枝に対し、各金三三〇万円並びに右各金員に対する平成五年七月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告笹尾和馬及び原告笹尾辰枝のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

(原告ら)

一  被告は、原告笹尾和也に対し、金一億五〇〇〇万円、同笹尾和馬及び同笹尾辰枝に対し各金四四〇万円並びにこれらに対する平成五年七月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  仮執行宣言

(被告)

一  原告らの請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  事案の概要

本件は、被告の設置する市立中学校の第三学年に在籍していた原告笹尾和也(以下「原告和也」という。)が右中学校の正課の体育の水泳授業中に飛び込み台から飛び込みをした際にプールの底に頭部を激突させて、第五頸椎粉砕骨折、頸髄損傷等の重傷を負い、四肢麻痺等の重度の後遺症が残ったが、右事故(以下「本件事故」という。)は、①本件プールには水深が不足しているにもかかわらず飛び込み台が設置されていた点で、飛び込みの際に人身事故が発生する危険性があるという通常の安全性を欠く設置管理上の瑕疵があったことによる、若しくは、②本件プール程度の水深・構造のプールにおいては、生徒の安全に対する配慮から、飛び込み台からの飛び込みを禁止するように教員らに指導すべきであったのに、これを行わなかった被告松任市の教育委員会委員らの過失、又は、生徒らに飛び込み台からの飛び込みを禁止するか、飛び込み方法についての指導を徹底するかすべきであったのにこれらを行わなかった指導担当教員の過失によるとして、主位的には国家賠償法二条一項により、予備的に同法一条一項により、原告和也及びその両親が被告に対して損害賠償を請求した事案である。

一  前提となる事実(括弧内に証拠を引用した部分を除き争いがない。)

1  当事者等

原告和也は、昭和五四年三月二七日に生まれ、平成五年七月一二日当時松任市光野中学校(以下「本件中学校」という。)の三年一組に在籍して、身長164.6センチ、体重五八キロの健康状態良好な男子生徒であった(身体の状況につき乙一)。

原告笹尾和馬は原告和也の父、原告辰枝は原告和也の母である。

被告は、本件中学校を設置し管理している。

2  本件事故の発生

原告和也は、平成五年七月一二日午前一〇時五五分ころ、本件中学校に設置されたプールにおいて、正課である第三時限の三年一組及び二組合同の体育授業中に、水泳の練習として飛び込み台から飛び込みをした際に、プールの底部に頭部を激突させ、第五頸椎粉砕骨折、頸髄損傷等の傷害を負った(以下この日の水泳授業を「本件水泳授業」という。)。

原告和也が頭部を水底に激突させた地点は、飛び込み台前方五メートルに満たない地点であった(乙一)。

3  本件プールの形状等

本件プールは、八コースの二五メートルプールであり、両短辺に飛び込み台が設置されていて、満水時の水深は、飛び込み台の真下において一メートル一〇センチ、その五メートル前方において一メートル二〇センチ、ほぼ中央部の最深部分において一メートル四〇センチであり、飛び込み台の高さは、水面から四〇センチメートルである。

財団法人日本水泳連盟のプール公認規則は、平成四年四月一日から実施された同規則の改正において、スタート側前方五メートルまでの水深が一メートル二〇センチ未満であるプールでの飛び込み台の設置を禁止することとした(以下右改正にかかる右規則を「プール公認規則」という。)。

したがって、本件プールは、プール公認規則に合致していなかった。

4  本件事故当時の水泳授業の状況

本件水泳授業においては、男子を河原山宗利教諭(以下「河原山教諭」という。)が、女子を表洋一教諭がそれぞれ担当し指導して、一コースから四コースまでを男子が、五コースから八コースまでを女子がそれぞれ使用して行われていた。

本件水泳授業の内容は、準備運動を行った後、水泳大会に備えて、各生徒は、水泳大会で出場が予定されている種目の練習を種目によって各コースに分かれて行うというものであった。水泳大会の種目は、リレー、ビート板リレー、背泳、平泳ぎ、クロールであり、男子は、リレー及びビート板リレーの生徒が一コース、背泳が二コース、平泳ぎが三コース、クロールが四コースに分かれて練習していた。原告和也は、リレー及びクロールでの出場が予定されており、四コースで練習していた。一コースは、飛び込みを十分習得しておらず、水泳大会においても飛び込まないで泳ぐ予定の生徒が、二コースは、背泳の練習を行う生徒が占めていたため、飛び込みは行われていなかったが、水泳大会で飛び込み台からの飛び込みをして泳ぐ予定の生徒が占めていた三コース及び四コースにおいては、生徒の大半は飛び込み台から飛び込んだ上で水泳の練習をしていた。(河原山宗利証人、原告和也本人、堀井正明証人)

5  事故後の治療経過及び後遺症

原告和也は、本件事故直後から金沢脳神経外科病院に入院し治療を受けた後、平成六年一二月一二日以降は済生会金沢病院に転院し、同病院を平成七年二月ころ退院し、引き続き同病院に通院して治療及びリハビリテーションを受け続けている(甲一、甲二、甲八)。

原告和也は、本件事故による頸髄損傷に起因する第五頸髄節以下の完全麻痺の後遺症を負い、その結果両腕の機能が若干残っているほか身体の首より下の運動機能がほぼ失われ、、食事、入浴、着替え、排泄などの日常生活上必要な行動のほぼ全般にわたり、他人の介護を要する状態である(甲七、山本信孝証人)。

6  本件事故後の本件中学校における水泳授業

本件事故発生後まもなく、本件中学校の水泳授業においては、スタートの逆飛び込みは一切禁止され、飛び込み台は撤去された(河原山宗利証人)。

二  当事者の主張

(原告ら)

1 本件プールの設置管理上の瑕疵(主位的請求原因)

本件プールは、その水深が飛び込み台の真下において一メートル一〇センチであり、飛び込み台から前方五メートルの地点でようやく一メートル二〇センチに達するにもかかわらず、高さ四〇センチメートルの飛び込み台が設置されていたのであって、飛び込みによる事故に関する安全確保の観点からは最低限に過ぎず未だ不十分であるプール公認規則にも合致しておらず、かつ、本件中学校の体育の水泳授業においては、生徒による飛び込み台からの飛び込みが許容されていたことから、本件プールには、飛び込み台からスタートする方法により使用されるプールとして通常有すべき安全性を欠く設置管理上の瑕疵があったことは明らかである。

2 職務執行上の過失(予備的請求原因)

(一) 被告教育委員会委員らの過失

被告の教育委員会委員らは、本件事故の前年である平成四年にプール公認規則が安全確保の目的で改正されて、水深が不足するプールにおいての飛び込み台の設置を禁止することとされていたのであるから、本件事故発生以前に、右改正後の基準に合致しない飛び込み台からのスタートの安全性に問題のあるプールにおいては、そもそも生徒に対する水泳指導の際には、飛び込み台から飛び込んでスタートすることを禁止するように教員を一般的に指導監督すべき職務執行上の義務があったにもかかわらず、これを怠った過失がある。

(二) 指導担当教員の過失

河原山教諭は、前期のように安全性に問題のあるプールである本件プールにおいて生徒に水泳指導をする際には、飛び込み台からのスタート自体を禁止するか、又は、飛び込み台からのスタートを指導する際には、その都度、最も安全な飛び込み方法を生徒に反復周知させるべき職務上の義務があったにもかかわらず、本件水泳授業において、飛び込み台からの飛び込みを含む内容の水泳の練習を指示しながら、飛び込み方法についての具体的な指導を怠った過失がある。

3 因果関係

本件事故は、前記1記載の本件プールの設置管理上の瑕疵、前記2の(一)記載の被告の教育委員会委員らの過失、又は前記2の(二)記載の指導担当教員の過失によって発生した。

4 損害

原告和也の損害

(1) 逸失利益八一三三万五三二六円

原告和也は本件事故当時健康な一四歳の男子中学生であり、満一八歳以降満六七歳まで就労可能であったが、本件事故により労働能力を一〇〇パーセント喪失した。その逸失利益は、賃金センサス平成四年度男子労働者学歴計の年間収入五四四万一四〇〇円を基準として算定すべきであり、ここから中間利息をライプニッツ係数によって控除して算定すると右金額となる。

(2) 付添看護費

三四七二万七五六〇円

原告和也の付添看護費は、一日五〇〇〇円を下らないところ、事故当時の平均余命六二年間に要する付添看護費を中間利息をライプニッツ係数によって控除して算定すると右金額となる。

(3) 療養雑費 六九四万五五一二円

原告和也の療養雑費は、一日一〇〇〇円を下らないところ、事故当時の平均余命六二年間に要する療養雑費を中間利息をライプニッツ係数によって控除して算定すると右金額となる。

(4) 療養のための自宅改造費用等特別出費 二八六万二六六〇円

原告和也は、療養のために、自宅の床のフローリング等の改築工事に二五三万円、車椅子代金自己負担分に一七万四〇一〇円、特殊ベッド代金に一五万八六五〇円を要した。

(5) 慰謝料 三〇〇〇万円

後遺症の程度が悲惨であること及び若年で本件事故に遭遇したことを考慮するとその苦痛は死亡した場合以上に慰謝されるべきである。

(6) 弁護士費用 一五〇〇万円

(二) 原告笹尾和馬及び同笹尾辰枝の損害

(1) 慰謝料 各四〇〇万円

原告和也が本件事故により重大な後遺症を負ったことにより、その両親として日々ともに苦しんでいるその精神的苦痛を慰謝するに足る慰謝料としては右金額を下らない。

(2) 弁護士費用 各四〇万円

(被告)

1 本件プールの安全性について

本件中学校の体育水泳授業においては、指導担当教員によって、生徒が飛び込み台からの飛び込みを指導教員の許可なく行うことは禁止されており、安全な飛び込みの方法についての指導も行われていた。

また、プール公認規則は、安全のための最小限のものとも、不十分なものともできないし、本件プールに設置されていた飛び込み台はプール公認規則の飛び込み台より高さが低く、本件プールはプール公認規則の対象外の非競技用プールであってその使用方法が異なる。

したがって、右規則に合致しないことから直ちに本件プールが安全性を欠いているということはできないし、指導しているとおりの普通の安全な方法による飛び込みが守られている以上本件のような事故が発生することはあり得ないのであって、本件プールは通常有すべき安全性を欠いているものではない。

2 過失について

(一) 教育委員会委員ら及び指導担当教員に過失がある旨の原告らの主張は争う。

(二) 指導担当教員の過失について

本件中学校の水泳指導担当教員は、生徒らに対し、許可なく飛び込んではいけないことを注意していた。また、原告和也が第二学年の時に飛び込みについて約一時間指導し、その際に両腕を耳の横にするようにし、手指をまっすぐ伸ばして飛び込み、入水後は手指を若干上向きにするなど正しい飛び込み方法を十分指導した。

本件水泳授業においては、指導担当教員は、飛び込みについて特別な指導はしていないが、平成五年度の第一回目の水泳授業において、原告和也を含む各生徒に対し、許可なしに飛び込んではいけないことを確認的に注意した。

したがって、本件指導担当教員に指導上の過失はない。

3 因果関係について

本件事故は、原告和也が、許可なく飛び込んではいけない旨の指導担当教員の指示に反して、恣意的かつ突発的に制止のいとまなく飛び込みをし、しかも、指導担当教員が指導した安全な方法ではない方法で飛び込んだことを原因として発生したものであり、プールの設置管理の瑕疵によって発生したものでも、被告の教育委員会委員ら又は本件中学校の指導担当教員の過失によって発生したものでもない。

4 損害

その額については争う。

三  本件の争点等

本件における争点は、①本件プールは飛び込み台からの飛び込みをするプールとして通常有すべき安全性を欠いていたか否か、②被告の教育委員会委員らに、本件プールのような構造のプールにおける飛び込み台からの飛び込みを水泳指導担当教員らが生徒らに対して禁止するよう一般的に指導監督すべき職務執行上の注意義務を怠った過失があるか否か、③被告の本件事故発生時の指導担当教員に、生徒らに対し飛び込み台からの飛び込みを禁止し、又は、安全な飛び込み方法について十分具体的に指導すべき職務執行上の注意義務を怠った過失があるか否か、④本件プールの設置管理の瑕疵又は前記②ないし③の過失と本件事故発生との間に因果関係があるか否か、⑤損害の額である。

第三  争点に対する判断

一  本件プールの安全性について

1  飛び込みの安全性とプールの水深等の関係について

プール公認規則は本件事故の前年である平成四年に改正され、飛び込み台前方五メートルまでの水深が一メートル二〇センチ未満のプールにおけるスタート台(飛び込み台)の設置を禁止することとしたが、日本水泳連盟が刊行した平成四年版の「日本水泳連盟プール公認規則」においては、規則本文の後に付加されている解説中に、「飛び込み事故と水深の関係について」との項目が設けられ、「水面上0.75メートルの高さから任意な姿勢で飛び込んで頭部や頚部を傷めないですむ水深をコンピューターを使ったシュミレーションで調べたところ、その深さはほぼ2.7メートル前後であった。」との研究例を紹介するなどして、スタート台の設置禁止はプールの底部への衝突事故を防止する趣旨によるものであることをやや遠回しにではあるが説明し、さらに、「水深1.2メートルは決して安全の基準ではない。しかし、水深2.7メートル以上のプールを規則で強制することは、余りに現実離れしているための妥協に過ぎない。」との説明を加えた上、「心して頂きたいことは、致命的な時間は溺死数分に対し飛び込み事故は一瞬(アッといったときは手遅れ)ということである。」と結び、水深の不足するプールにおいては、飛び込み自体をさせないようにするほかには事故防止の方策がないことを強く示唆している(甲三)。

したがって、その水深及び飛び込み台の設置に関して、右プール公認規則にさえ合致しないプールは、飛び込み台からの飛び込みを行って使用するプールとしては通常要求される安全性に欠けると推認されるというべきである。

しかし、被告が指摘するように、プール公認規則においては、飛び込み台の高さは、水面上七〇センチメートル以上一メートル五センチ以下とされていて(甲三)、本件プールの飛び込み台が水面上四〇センチメートルであるのと比べると、約二倍程度の高さに定められているので、その相異をも考慮してさらに検討を要するところである(ただし、本件プールに設置されていた飛び込み台は、その上面が水平であって(乙一)、通常六度以内の角度で前方に向かって傾斜が設けられている競技用プールの飛び込み台とは異なっている。この飛び込み台上面の傾斜は、前方に強くけり出し易い利点を有すると解され、後述するように飛び込み事故発生の原因の一つに前方へ向けて蹴り出す下腿の力の不足が挙げられていることを考慮すると、この傾斜がない点においては、本件プールに設置された飛び込み台は飛び込み事故防止の観点から見て、競技用プールの飛び込み台より、不利な点もあるということができ、高さが低い分だけ直ちに事故発生の危険の減少につながるものではない。)。

プール公認規則には、前記基準に満たないプールについては、高さの限度を示すことなく無条件で飛び込み台の設置を禁じる規定が設けられているのであるが、右規則においては、プールを囲む壁のうちスタート台側及びそれと正対する側の壁(これを「端壁」と称する。)の水面上の立ち上がりを二〇センチメートル以上三〇センチメートル以下とし、その上に飛び込み台を設置することとしている。したがって、同規則に従った飛び込み台のないプールを想定すると、飛び込みは、水面と同じ高さの地点から行われるのではなく、水面上二〇センチメートル以上三〇センチメートル以下の高さとなる端壁の上から行われることになる。そして、飛び込みの際の事故発生の危険性を考察する観点からは、飛び込み位置の水面上の高さが問題となるのであって、その内訳としての端壁の立ち上がりの高さ及び飛び込み台の高さの区別は意味を持たないことは明白である。してみれば、プール公認規則が飛び込み台の設置を禁じた趣旨は、飛び込み事故防止のための最低限の基準として、飛び込み台の前方五メートルまでの水深が一メートル二〇センチに満たないプールにおいては、水面上の高さが三〇センチメートルを越える地点からの飛び込みを行わせるべきではないことを定めたものと解するのが最も合理的である。

そして、本件プールは飛び込み台の水面上の高さが四〇センチメートルであるから、右に判示したプール公認規則の基準に合致しないということができる。

なお、平成四年版のプール公認規則は、小中学校プールの水深を八〇センチメートル以上としつつ、飛び込み時の事故防止・軽減の見地から小中学校プールであっても、水深を一メートル以上とすることが望ましいと註記しているが、飛び込み台と水深との関係については、公認競泳用プールの規定を準用しており、端壁前方五メートルまでの水深が一メートル二〇センチ未満であるときは、飛び込み台を設置してはならないことは同様とされている(甲三)。実質的に見ても、近時の中学生には体格において標準的な成人と同等以上の者も少なからず含まれることは公知の事実であり、そのような中学生が使用するプールの飛び込み事故防止上の安全基準を検討するに当たり、成人用プールより水深が浅くてよいとする根拠はないと考えられるから、中学校のプールに関して、飛び込み台の設置を右基準より緩和すべき理由はないというべきである。

ところで、文部省は、学校教育用の一般的な水泳プールの規格について、飛び込み事故防止の観点からは、飛び込み台の設置及びその高さとプールの水深との関係に関して自らは具体的基準を策定せず、日本水泳連盟のプール公認規則を参照すべきものとしており、それ故に、日本水泳連盟のプール公認規則中の前記飛び込み台設置禁止規定が、学校教育関係者らにおいてまず参照すべきものとされている状況が生じている(甲二四)。

また、財団法人日本体育施設協会の学校プール調査研究委員会は昭和六〇年に「建設・管理・指導・事故対策―学校水泳プールの全て」を公にしたのであるが、プールの水深と飛び込み台の高さとの関係について、水深は飛び込み台の高さの三倍以上とするという基準を示しているところ、この基準は、学校教育において使用するプールを対象とし、かつ実証的な研究結果に基づくものであり、飛び込み台の高さと安全のために必要な水深との関係を明確に示したものとして、参照に値するものである(甲二四)。

以上のように、プールに飛び込み台を設置する場合、いずれの基準も安全のために、十分な水深を確保することを求めているが、これらの基準が示されるに至ったのは、現実にプールでの飛び込みにより重篤な事故が多数発生してきたという事態(甲二〇、甲二四)を直視してのことであり、かつ、これまでに報告された飛び込み事故防止の観点からのさまざまな科学的、実証的研究結果に依拠したものである(甲二〇から甲二四まで)。

右の研究結果等を要約すると次のとおりである。飛び込んだときの頭部の到達深度については、飛び込み台の高さ、飛び出しの方向、飛び出しの速度、身長、技能などによって左右されるものであり、特に身長と飛び込みの方法による影響が大きいことが指摘されている(甲二三)。一〇歳から一七歳までの水泳選手を対象とした調査では、えぐるような入水(スクープスタート)の場合、男子で約一メートル二〇センチ、女子で約一メートルに達し、一メートル三七センチ以上に達する者が一〇パーセント見られ、浅い入水(フラットスタートやトラックスタート)の場合、男女とも約0.7メートルに達するとの報告がされており、技能の巧拙以上に、飛び込み方法の違いによる影響が大きいことが理解されうる(甲二二)。また、水面上三五センチメートルの高さの地点から、普段行っているスタートをした場合の到達深度についての実験では、小学生の場合、到達深度が浅い児童が多く、平均では五七センチメートルであったが、個人差は大きく、入水地点が近い場合や上級者と思われる被験者では、到達深度が深く、最大到達深度が一メートル六〇センチという者がおり、一般大学生の場合、平均五七センチメートルで、個人差が小さくなるものの、最大到達深度が一メートル三〇センチという者がおり、大学水泳部員の場合には、平均一メートル三センチで、最大到達深度一メートル五〇センチという者があり、上級者になるほど個人差は小さくなるが、かえって平均到達深度は深くなるという結果が報告されている(甲二四)。飛び込み台の高さについては、等身大のダミーによる落下実験によれば、三〇センチメートルから五八センチメートルの飛び込み台から、水深九〇センチメートルの水底に衝突させた場合、どの高さにおいても相当のダメージを負う可能性が確認されたほか、飛び込み台の高さの僅かな差が衝突の重大な原因とはならず、むしろ技能の介在する余地が大きいことが指摘されている(甲二二)。身長との関係については、飛び込み事故を防止するためには身長の二倍より浅いところでは飛び込むべきではないとするアメリカの研究者もいる(甲二〇)。

これらの研究結果等に照らせば、前記の日本水泳連盟及び日本体育施設協会が示した各基準は、水泳用プール一般に妥当するまさに最低限度の安全性の基準を示していると認められ、飛び込み事故防止の観点のみから見れば、右各基準は、なお不十分とさえ考えられるところ、本件プールのように、水面から四〇センチメートルの高さの飛び込み台を設置する場合には、飛び込み台前方の水深は、安全のため最低一メートル二〇センチ以上は確保されなければならず、それに、満たない水深であった本件プールは、右各基準にさえ達していないものであるから、飛び込み台から飛び込みを行って使用するプールとしての通常有すべき安全性を欠いていた瑕疵があるものというべきである。

もとより、飛び込み事故防止の観点からのみプールの水深を定めれば、水深が深くなり、かえって溺死事故の発生の危険等が生じることになるから、現在行われているような飛び込みによるスタートを含む水泳教育を前提とする限り、プールにおける事故全般の発生を防止するためには、飛び込み台前方の水深を十分深くし、それ以外の部分や周縁部の水深を浅めにした複合構造のプールを採用することなど、プール事故防止のための科学的研究を踏まえ、十分な安全性を備えた施設に改善する必要があるところ、現実問題としては、そのような施設の改善が実現するまで、飛び込み台を設置しないようにする以外には方法がないと考えられるところであり、その意味で、本件事故後、飛び込み台を撤去した本件中学校の対応は、本件事故との関係では遅きに失したというべきであるが、本件事故の反省の上に立った妥当な処置と理解されるものである。

2  プールの安全性と飛び込み方法の指導について

被告は、右1の点に関連して、本件プール程度の水深のプールにおいても、生徒らが水泳指導担当教員の正しい飛び込み方法についての指導を守っている限り、プール底部への衝突事故は生じないとして、本件プールに安全性が欠ける瑕疵はないと主張するので、以下この点について判断する。

まず、飛び込み事故に関する科学的、実証的研究によれば、プール底部への衝突事故が起こる原因としては、プール水深の不足及びスタート位置が高すぎることなど施設上の問題、無謀な飛び込み方法等の飛び込み者の重大な落ち度、疲労等による体調不全、飛び込み時の必ずしも飛び込み者の落ち度とまでいいにくい種々の技術的欠点(飛び込み時の下腿による前方への蹴り出す力の不足、飛び込み角度が下向き、両腕が伸びていない、腰部が屈曲している、入水点が近い、入水後の手首の返しが不十分など)の複合により水中での到達点が深くなり過ぎること、パイクスタート及びスクープスタートと称されるような高く遠くに飛び出す水泳競技における高度な飛び込み方法を試みた場合、入水角度が浅すぎることにより入水時に腹部を水面に強打するいわゆる「腹打ち」を避けるためなどの意図から種々の入水方法を試みるうちに空中での体勢又はバランス保持に失敗して入水角度が深くなり過ぎることなど様々なものが考えられるのであって、飛び込む者の無謀さ等にのみ帰すことは到底できないし、通常予測できないような異常な飛び込み方法を採った場合に限られるものではないことが、認められる(甲五、甲二〇、甲二二、甲二三)。

また、本件で事故の前年に原告和也に飛び込みの練習を課題とする授業を行った河原山教諭は、飛び込みの指導内容を問う質問に対し、腕と手指を真っ直ぐ伸ばして飛び込み、飛び込んだ後に手首を返すべきことは十分指導したという内容の証言しているが、水中での到達点が深くなり過ぎる要因として、より根本的かつ重大な影響のある前方へ強く蹴り出すべきこと、腰を曲げずに体全体を真っ直ぐな状態で飛び込むべきこと、飛び込み台の近くに地点に向かって下向きに飛び込んではならないことについては、何ら言及していない(河原山宗利証人)。これは右教諭が則って指導したという乙一号証中の本件中学校体育部会名義の「スタートの指導」と題する体育担当教員らによって飛び込みの指導方法の詳細が定められた文書に、そもそも右事項はほとんど含まれていないことによると推認されるから右教諭個人の問題ではない(乙一)。しかも、スポーツ事故の専門研究者による文献においては、これら事項についての指導の必要性が特に強調されていること(甲二〇、甲二二)に照らすと、安全で正しい飛び込み方法の生徒・児童に対する指導方法自体が十分確立されていない疑いもあり、少なくとも現実の教育の場において普及徹底しているとは言い難いと考えられるのみならず、右に摘記した事項を強調して指導すると、反面で高く遠くに飛び込むことによる危険が懸念されると解されるうえ、前記のように飛び込み事故の原因としては技術面、非技術面にわたり多様な要因が存在する中で、これらの要因のすべてに対応して、事故防止のための的確な飛び込み指導を行うことは決して容易なことではないというべきであるし、まして、生徒らが右指導を遵守し、逸脱、過誤の生じる可能性がないと期待することは著しく困難であるといわざるを得ない。

したがって、被告の前記主張はその前提を欠くものというべきであるから、採用できない。

3  本件プールの使用状況について

被告は、本件水泳授業において、指導担当教員の許可を受けない飛び込みは禁止され、許可を受けた場合も教員の厳重な監督下でのみ飛び込みが許されるに過ぎなかったとして、そのような使用状況に照らすと、本件プールは通常有すべき安全性を欠いたものとはいえないと主張するので、以下本件プールの使用状況について、飛び込み台からの飛び込みがどの程度行われていたかを中心に検討する。

関係証拠(乙一、河原山宗利証人、原告和也本人、堀井正明証人)を総合すると、以下の事実が認められる。

平成五年当時、本件中学校においては、体育授業としての水泳は、六月中旬から七月下旬までの期間に合計約一〇時限程度の日程で行われていた。水泳授業の指導計画は、体育担当教員らの協議の上で作成され、職員会議に報告されることとなっており、その計画に従って担当体育教員が生徒の指導に当たることとなっていた。各授業においては、準備運動の後、その日に予定されている特定の泳法の練習、検定、タイム測定などの課題が行われ、課題が終わった後は自由時間として生徒らに自由に泳ぐことが許される時間とされた。

飛び込みは、第一学年の間は基本的に禁止され、飛び込みを含むスタートは、第二学年時の課題とされていた。原告和也は、本件事故のあった年の前年に、飛び込みを課題にした一時限の授業において、河原山教諭から、両腕を耳の横にして飛び込まなければならず、指先を下に向けたら下に行くし、上に向けたら上に行くから、指先は真っ直ぐにしておかなければならないことなどの注意を受けた上で飛び込みの練習をした。その際、右教諭は、飛び込む際の体勢を生徒らに示したことはあったが、実際に飛び込んで見せたことはなかった。飛び込みの練習は、水中に立った体勢から前方にスタートするイルカ飛びと称される方法から始まり、生徒らの習熟度に応じて段階的に徐々に高い体勢から飛び込むようにして行われ、どのような体勢から危険なく飛び込めるかを河原山教諭が検定し、右教諭は、膝ほどの水深のところからできる者をA合格、プールサイドからできる者をB合格、飛び込み台の横からできる者をC合格、飛び込み台の上からできる者を○(マル)合格として、○合格の生徒に対しては、飛び込み台の上からの飛び込みをしていいと伝えた。この飛び込みの検定は、その後の授業の際にも希望者があれば行われて、本件事故発生の時点では、○合格とされた生徒の比率は、原告和也が在籍していた学級の男子において、半数近くとなっていた。原告和也は、右の第二学年の飛び込みを課題とした授業において、河原山教諭から○合格とされていた。

水泳の授業においては、指導担当教員がプールに来て授業開始を告げる前から、早めにプールに来ていた生徒らが自由に泳いでいたこともままあり、飛び込み台から飛び込んでいた生徒もいたが、河原山教諭はこれらを黙認し特に注意して止めさせるようなことはなかった。当日の課題が特定の泳法のタイム測定や水泳大会の練習であった場合は、○合格の者は、課題においても、飛び込み台から飛び込んで泳いでいた。課題が終わった後の自由時間においても、少なくとも○合格を受けた生徒らは、しばしば飛び込み台から飛び込んで泳いでいた。そして、本件事故のあった際の水泳大会の練習においても、男子が使用していた四コース中二コースにおいて、多くの生徒が飛び込み台から飛び込んで水泳の練習をしていた。本件事故の発生時に、河原山教諭は、背泳の練習をしていた生徒の個別指導に当たっていて、飛び込み台から飛び込んで泳いでいる生徒らが多数いるコースを注視してはいなかった。生徒らは、右のように飛び込み台から飛び込んで水泳の練習をしている際に、飛び込み台から飛び込むこと自体を河原山教諭から制止されることはなく、飛び込み方法を注意されることもたびたびはなかった。なお、水泳大会は、第二学年及び第三学年で行われ、飛び込み台からの飛び込みができる者は、飛び込み台から飛び込むことになっていた。

以上の事実によれば、本件プールは、本件事故発生当時生徒らが相当の頻度で飛び込み台から飛び込む状態で使用されており、かつ、右状態は基本的に体育担当教員らによって指導体制上容認されていたのであって、これに本件プールには八コースすべての両側に飛び込み台が設置されていたというその外形を併せると、本件プールは、飛び込み台からの飛び込みが行われることを含む使用に供されていたものというべきであり、本件において、そのようなプールとしての安全性が検討されるべきである。

4 本件プールの安全性についてのまとめ

以上検討したところからすれば、本件プールは、本件事故発生当時、生徒の飛び込み台からの飛び込みを伴って使用されるプールでありその水深、飛び込み台の存在及びその高さにおいて、そのようなプールとして通常有すべき安全性を欠いた設置管理上の瑕疵があったと認められる。

二  因果関係

被告は、本件事故は、原告和也が教員の指導に反して、無許可で恣意的かつ突発的に不当な飛び込み方法で飛び込んだことによって生じた旨主張しているところ、これはプールの設置管理上の瑕疵又は被告の公務員らの過失と本件事故発生との間の因果関係を争う趣旨と理解されるので、以下検討する。

まず、前記一3認定のとおり、本件水泳授業においては、相当多数の生徒による飛び込み台からの飛び込みが行われ、かつ、指導担当教員は、それを容認し、しかも、常に具体的に注視してはいなかったのであるから、原告和也が教員に無許可で恣意的かつ突発的に飛び込んだとの被告主張は是認できない。

次に、原告和也の本件事故の際の飛び込み方法いついて検討する。被告は、原告和也の頚椎の粉砕骨折の状況から、本件事故による水底への衝突部位は頭頂部のやや後頭部寄りと推定されることに基づき、水泳指導担当教員の指導内容に従った飛び込み方法をしていれば、このように後頭部寄りを衝突させることはあり得ず、指導に反した著しく不当な飛び込み方法がなされたことが推定されると主張する。そして、頚椎の粉砕骨折の状況からすると、原告和也は、顎を引いた形で首を屈曲させた状態で、まっすぐ垂直に頭頂部からやや後頭部寄りの部位を水底に強く衝突させたものと認められる(乙二の一、同二、山本信孝証人)。

しかし、入水角度が深くなり過ぎて水底への衝突事故が発生する原因としては、前記一2記載のとおり、様々な要因が考えられるのであって、右衝突状況のみからは、結果的に望ましい形の飛び込みではなかったことは推測されるが、それがどのような飛び込み方であったかを具体的に推測することはできない。そして、前記のとおり、右の様々な要因の中には飛び込みをした者の落ち度とは評価しがたい要因も相当多く含まれているのであるから、結局、衝突部位から原告和也の飛び込み方法が教員の指導をことさら逸脱した不当なものであったと推定することは困難であるといわなければならない。

また、前記の一2、同3認定のとおり、原告和也が教員から飛び込み事故防止の観点から十分に的確な飛び込み方法の指導を受けていたとは認められない。そして、原告和也は、本人尋問において、本件事故以前にも飛び込んだ際に体が水中深く入ってプールの底が間近に見えるようなことがあったかも知れないが、その原因については思い当たることはなく、本件事故の際にも腕を耳の横につけて普通に飛び込んだという記憶で事故の原因となるようなことについて心当りはないと述べているが、事故の原因となりうる要因の中には、前述のように蹴り出す際の下腿の力不足、空中での身体のバランス保持の失敗、腰の屈曲など飛び込んだ者自身が気がつきにくい性質のものが多く含まれていることから、右供述は信用できないものではない。また、原告和也は、本件授業においては、前の授業の後片付けのために遅れたことを河原山教諭に報告した後、水泳大会の練習として飛び込み台から飛び込んで二十五メートルプールを三往復程度泳いだ後に本件事故に遭遇したと供述しているが、右供述は具体的、詳細かつ自然であって、十分信用できる。そして、右の状況に本件事故のあった授業は水泳大会の練習を課題とする授業として二時限予定されていた二回目の授業であって、水泳大会直前であり、原告和也は水泳が得意な生徒でクラス代表リレーの選手にもなっていたこと、本件事故が授業に遅れてきた原告和也が水泳の練習を始めてから一〇分以内に発生していること、及び原告和也が事故時にふざけたり無謀な飛び込みをしたことをうかがわせるような信用すべき証拠は何ら存在しないことを総合すると、本件事故の際に原告和也は水泳大会の練習に励んでいて、基本的には教員の指導に則って飛び込んでいたと推認される(乙一、河原山宗利証人)。

そして、右に判示したところに、前記認定のとおり本件プールは飛び込み台からの飛び込みを行うプールとして通常有すべき安全性に欠ける瑕疵があったこと及び原告和也が標準的な成人に近い体格を有する生徒であったことを併せて考慮すると、本件事故は、右の本件プールの有した危険性の発現として生じたものと認めることができるから、本件プールの設置管理上の瑕疵と本件事故発生との間に因果関係があるものと認められる。

三  損害

1  原告和也の損害

(一) 逸失利益

八一三三万五三二六円

原告和也は本件事故当時健康な一四歳の男子中学生であり、満一八歳以降満六七歳まで就労可能であったと予想されるところ、本件事故により労働能力を一〇〇パーセント喪失したから、その逸失利益は、平成四年度賃金センサスの男子労働者学歴計の平均年収額五四四万一四〇〇円を基礎に、ライプニッツ方式によって中間利息を控除して本件事故当時の現価として算定するのが相当であり、これにより算定すると八一三三万五三二六円となる。

(二) 近親者付添看護費及び近親者介護費 三四七二万七五六〇円

原告和也については、その後遺障害の程度及び生活状況によれば、事故時から退院に至るまでは近親者の付添看護を常時要したし、退院以降将来にわたっても、介護を常時要すると認められるから(甲一七)、付添看護費及び介護費として一日当たり五〇〇〇円を相当とし、その期間を原告和也の事故当時の平均余命である六二年間として、ライプニッツ方式によって中間利息を控除して本件事故当時の現価として算定すると、三四七二万七五六〇円となる。

(三) 療養雑費

六九四万五五一二円

原告和也については、その後遺障害の程度及び生活状況によれば、本件事故時から退院に至るまでの入院期間において入院雑費を要するとともに、退院後将来にわたっても通院等の療養のために通常の健常者には要しない種々の雑費が必要であると認められ、その額は一日当たり一〇〇〇円を相当とし、事故当時の平均余命の六二年間に要する療養雑費をライプニッツ方式によって中間利息を控除して本件事故時の現価として算定すると六九四万五五一二円となる。

(四) 療養のための自宅改造費用等特別出費 二八六万二六六〇円

原告和也は、療養のために、自宅の床のフローリング等の改築工事に二五三万円を要し(甲八、甲九の一から三まで、甲一〇)、車椅子及び特殊ベッドの購入費用にそれぞれ一七万四〇一〇円及び一五万八六五〇円を要した(甲一七、甲一九)ところ、右は本件事故と相当因果関係に立つ損害と認められる。

(五) 慰謝料 二四〇〇万円

原告和也の後遺症の程度が重篤であること、若年で本件事故に遭遇したこと及び本件事故後約一年七か月の長期にわたって入院生活を余儀なくされ、退院後も現在に至るまでリハビリテーションのために通院を継続していることを考慮すると、原告和也の精神的苦痛を慰謝するには二四〇〇万円をもって相当とする。(甲一七、甲一八)

(六) 弁護士費用 八〇〇万円

本件事案の内容、審理の経過及び認容額に鑑みると、本件事故と相当因果関係に立つ原告和也の弁護士費用は八〇〇万円と認めるのが相当である。

(七) 原告和也請求分の認容額について

前記(一)から(六)までに認定した原告和也の遅延損害金を除く損害額の合計は、一億五〇〇〇万円を上廻るが、原告和也の本訴請求額は、一億五〇〇〇万円であるから、その限度により請求額全額が認容されるべきものである。

2  原告笹尾和馬及び同笹尾辰枝の損害

(一) 慰謝料 各三〇〇万円

原告和也が本件事故により重大な後遺症を負ったことにより、その両親として日々辛苦を味わっているその精神的負担の大きさに照らし、慰謝料としては各三〇〇万円を相当とする。(甲一七、甲一八)

(二) 弁護士費用 各三〇万円

本件事案の内容、審理の経過及び認容額に鑑みると、本件事故と相当因果関係に立つ原告笹尾和馬及び同笹尾辰枝の弁護士費用は各三〇万円と認めるのが相当である。

第四  結論

以上の次第で、その余の点について判断するまでもなく、原告和也の請求は、理由があるからこれをすべて認容し、原告笹尾和馬及び原告笹尾辰枝の請求は、各金三三〇万円及び右各金員に対する本件事故の発生した日の翌日である平成五年七月一三日以降支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用については、被告の負担とし、右各金員の支払いを命ずる部分につき仮執行の宣言を付することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官渡辺修明 裁判官田近年則 裁判官栁本つとむ)

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